「慰安婦」問題を知ろう

以下は、「wamだより Vol.27」(2014.7)に掲載した文章です。

【検証】河野談話をめぐって(1)
河野談話の検証結果が明らかにしたこと、しなかったこと

渡辺美奈(wam事務局長)

 日本政府は、河野談話の作成過程および後続措置であるアジア女性基金について、2014年6月20日に検証結果の報告書を発表しました。この文書は、何を明らかにし、何を明らかにしなかったのでしょうか。

 検証の結果、河野談話の文言については、韓国政府との調整が若干あったものの、日本政府は「調査を踏まえた事実関係を歪めることのない範囲」で採用していたことが明らかになりました。河野談話を守ることが精いっぱいの運動のなかでは、「河野談話を見直す必要がないことがわかったから、いいのではないか」という意見も聞こえてきますが、事実関係を中心に問題点を指摘しておきたいと思います。

1.被害証言を証拠と捉えなかったこと

 1993年7月に行われた韓国の「慰安婦」被害者16人の証言聞き取りは「儀式」であり、河野談話では証拠として採用していないことが明らかになった。裏付けをとっていない「慰安婦」被害者の証言の信憑性について歴史修正主義者が疑義を唱えていたため、証言が根拠になっていなかったことを問わない傾向がある。しかし、日本政府が調査の一環として聞き取りをした証言を証拠として採用しなかったことは大きな問題であり、その理由を明らかにする必要がある。

2.「強制連行」は確認できないとしたこと

 検証結果では「いわゆる強制連行」は確認できなかったと断じている。一方、河野談話では、「慰安婦の募集については……甘言、強圧による等、本人の意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したことが明らかになった」という文言がある。証言を根拠にしていなかったことがわかった以上、この事実を認定した文書等を明らかにし、そのうえで「いわゆる強制連行」との違いを説明すべきである(なお、検証結果には韓国挺身隊問題対策協議会が制作した証言集等も分析していたことが示されており、また軍が民間人抑留所から女性たちを連行したスマラン事件の判決等は、河野談話作成の時点で、すでに政府は入手していたことが確認されている)。

 実は河野談話には、「強制連行」という言葉も「強制性」も存在しない。あるのは「本人の意思に反して」と「強制的な状況の下」という文言である。それが、2007年3 月、第1次安倍政権下の閣議決定で「いわゆる強制連行」という文言が登場して以来、混乱が起きている。しかしこの検証結果においてもこれらの文言の違いは明らかにされないまま、「いわゆる強制連行」を否定した。国連の自由権規約委員会においても「強制連行」と「意思に反した募集」の違いが理解できないと指摘されている。

3.「強制性」を限定して理解していたこと

 今般の検証結果で、強制性を認めるにあたっての日本政府の「こだわり」として明らかになったのは、「一部に強制性があった」という主張である。それは石原信雄官房副長官が「慰安婦全体について強制性があったとは絶対に言えない」と、感情的な主張をしていた記録にも示されている。どのような被害を「強制性」があったとし、あるいはなかったと考えたのかは明らかではないが、この見解は、「慰安婦」制度を日本軍性奴隷制として理解していなかったことの証左といえる。

4.外交慣例をやぶったこと

 日本政府としての立場を発表するにあたって、相手国に相談することは当然のことであり、検証結果もその範囲を超えたものとは思われない。しかし、公開しないことを約束した外交交渉であり、しかも相手国の反対が事前に示されているにもかかわらず、一方的に公開したことは日本政府の外交姿勢として非難を免れない。また、韓国政府からは、検証結果は“外交文書のつまみ食い”であるとの批判がなされている。情報公開は良しとする向きがあるが、都合のいいところだけを公開しているとすれば問題である。

5.委員会の人選への疑問、その他

 検証委員会の人選については何の説明もなく、適任かどうかも不明である。また、河野談話の作成過程の検証が当初の目的であり、「歴史的事実そのもの」は検討しないと調査範囲を決めつつ、後続措置であるアジア女性基金について紙幅を割いている点も不可解である。さらにいえば、1993年の時点ではフィリピンや台湾、インドネシアなど他の被害国政府とのやりとりも始まっていたはずだが、それらにはまったく触れず、日韓関係のみにしぼることが適切だったのか。

 総じて、この検証結果は疑問点を残しているとともに、事実に反する結論を示している。そうである以上、歴史の事実を明らかにするためのさらなる調査・検証が必要である。



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