発行物

「wamだより」VOL.20(2012.3)

以下は、 VOL.20(2012.3)に掲載した文章です。


「慰安婦」問題をめぐる日本のメディアの深い闇

池田恵理子(wam館長)

wamだより20号昨今の日本のメディアは「慰安婦」問題を取り上げると、たちの悪い健忘症に陥ってしまったような論調に走るので愕然とします。

2011年は「慰安婦」問題の大きな節目の年でした。金学順(キムハクスン)さんが名乗り出てから20年、ソウル・日本大使館前の水曜デモが1000回を迎えました。そして韓国の憲法裁判所は、政府の不作為は憲法違反だという決定を下しました( 8 月)。これに背中を押されるように韓国政府は二国間協議を申し入れ、李明博(イミョンバク)大統領は首脳会談で野田首相に対応を迫り(12月)、3 ・1 独立運動記念式典でもこの問題に言及しました。

日本の「慰安婦」支援運動は20年前、韓国の被害者の声に触発されて始まり、アジア各国の「慰安婦」裁判支援に広がって被害女性と共に歩んできました。ですから韓国が動き出し、この問題の報道される機会が増えるのは嬉しいはずなのです。ところが全国紙は、「日韓基本条約で解決済み」「償い金の支払いは、女性のためのアジア平和国民基金で済ませている」という日本政府の主張を追認するばかりでした。法的責任を回避した「国民基金」が被害女性から拒否され、彼女たちを傷つけた歴史を忘れたのでしょうか。

12月14日、ソウルの日本大使館前に建てられた「平和の碑」の早急な撤去を野田首相が求めると、李大統領は「誠意が示されなければ、第2 、第3 の像が建つだろう」と応酬。それを朝日新聞の天声人語は「未来志向の関係に銅像ひとつが水を差す」「反日と嫌韓の連鎖はそろそろ断ち切りたい」と書きました。しかしこの日、ハルモニたちに連帯した行動は全国各地で展開され、外務省を囲む「人間の鎖」では1300人が日本政府に謝罪と賠償を求める声をあげています。そしてこの模様を、朝日からは記者が何人も取材に来たのに全国版には掲載せず、テレビではTBSが取り上げただけ。これまでの経緯を踏まえて日本の戦争責任に言及したまともな社説は、琉球新報のみでした。

またNHKのニュースでは、ソウルの「平和の碑」の隣で訴えるハルモニを、「いわゆる従軍慰安婦だったとされる女性」という字幕を付けて報じました。右派の人々は「慰安婦は金もうけが目的の売春婦」として被害者を貶しめてきましたが、まるでその主張を受け入れて「自分では慰安婦だったと言っていますが、本当はどうだか…」と憶測している印象を与える表現です。これには、あまりに憤慨したので一視聴者としてNHKに抗議の電話をしましたが、「現場に伝えます」と繰り返されるばかりでした。

1990年代後半からのバックラッシュの中で、メディアは「慰安婦」問題をタブーにして封印し、国連や国際社会、日本やアジアの国々でこの問題をめぐる大きな動きがあっても、滅多に取り上げません。そのため若い記者に、情報や知識が欠落していることもあるでしょう。野党時代には「慰安婦」被害者を救済する議員立法を繰り返し提出する側にいた民主党は、政権の座についてからはこの問題に触れようとしません。「嘆くだけではダメ…」と思いつつ、被害女性の顔を思い浮かべては、怒りと申し訳なさでいっぱいになります。


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