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「wamだより」VOL.30(2015.7)

以下は、「wamだより Vol.30」(2015.7)に掲載した文章です。


小田実と「慰安婦」問題、そしてファシズム前夜

池田恵理子(wam館長)

vol-30_k作家の命日では、太宰治の桜桃忌(6月19日)や芥川龍之介の河童忌(7月24日)が知られていますが、○○忌などの命名はないものの、7月になると毎年、偲ぶ会が開かれるのが小田実(まこと)です。亡くなったのは2007年7月30日、75歳でした。しかし小田さんの場合は、文学ファンが集まって、作家と作品をしっとり語り合うという○○忌の雰囲気とはおよそ異なり、現在の日本社会が直面する緊急課題が熱く議論されます。こんなところは、1960年代後半にベトナム反戦運動を立ち上げ、阪神淡路大震災の後には被災者支援法を作るために奔走した市民アクティビスト・小田実の面目躍如でしょう。

今年の没後8年の偲ぶ会は7月18日に開かれました。「戦争のできる国づくり」をひた走る安倍政権の下、衆院特別委員会で安保法案が強行採決された直後です。社会には強い危機感が広がり、憲法学者たちは「憲法違反」を指摘、様々な団体や市民は「戦争NO!」の声をあげて、連日、国会周辺を取り囲みました。だから小田実を偲ぶ会のタイトル「いまこそ良心的軍事拒否国家を!」は、時宜を得た小田さんからのメッセージでした。

今年、私は“小田実と「慰安婦」問題”を話す機会をいただきました。と言うのも、NHKのディレクター時代、私は8本の「慰安婦」番組を作りましたが、そのきっかけを与えてくれたのが小田さんだったのです。

阪神大震災の後のETV特集でシリーズ『震災から戦後日本を問う』を放送した時、最終回には『再びの戦後に向けて』と題して小田実さんと久野収さんの対談を組みました。小田さんはこの対談で、「この震災は戦後日本の曖昧さ、思想的なつき詰めの甘さを浮き彫りにした」と語りました。震災によって高速道路の倒壊とか災害時に対応できない行政など、多くの戦後日本の欠陥が浮き彫りになりましたが、戦後50年経っても取り組めていない問題として「慰安婦」問題をあげました。日本兵は無謀な戦場に駆り出された被害者だったがアジアの民衆には加害者であり、慰安所へ行ったのは兵士の自由意思だったから、「絶対的被害者」としての「慰安婦」に対しては兵士個人の責任も問われる、しかし日本人はこの問題を突き詰めて考えてこなかった…というのです。私は1ヵ月半の阪神での勤務を終えて東京へ戻ったら「慰安婦」番組の取材を始めようと心に決めて、実行に移しました。

その後小田さんは、第1次安倍政権が平和憲法を改憲しようとしていると批判し、日本の平和主義と民主主義が捨て去られ、憲法9条が有名無実にされることに警鐘を鳴らしました。日本は、ナチスが台頭し「民主主義のもとで民主主義を殺し」、「少数者に権力が奪取されたワイマール共和国の末期と酷似している」とも書いています。この批判があまりにも的を射ているので、戦慄をおぼえます。


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