記載内容 | 本書冒頭の「日本のシンドラーたち」の項でユダヤ人難民を乗せてブラジル・サントスに向かった大阪商船「ぶらじる丸」のことを紹介したが、同船には藤本寛司厨員=写真=がいた。やがて戦争が始まり、ぶらじる丸は陸軍輸送船となっていたのだが、あるとき、神戸港を出港したさい、神戸の福原遊廓から来たという慰安婦5百人を乗せている。藤本によれば、たいへんにぎやかな一行だった。船内での行動は制限されていたはずなのだが、なにせ大人数である。赤信号、みんなで渡ればーてな具合で、「手伝いましょうか」なんて船の台所である司厨室にも平気でやって来る。司厨部は男所帯なのに、ぜんぜん気にもしない。当時、駆け出しの藤本も適当にからかわれている。果ては身の上話なんぞも聞かされ、大いに同情したものだった。「からっとした気っぷ」がなによりだった。「どこかはっきり行き場所は聞いていないけど、南方に行くの」「支度金がよくってね、2千5百円もくれた」「親の借金を払ってやった」「抵当に入っていた家の田畑が買い戻せた」(なお、「慰安婦5百人」という数字について、藤本は「数字は確か。食事を世話する関係ではっきりと記憶しています」といっている) |