記載内容 | その城内から思ってもいない食糧が届いた。それも握り飯1個とカンパン1袋あてであった。この握り飯は、慰安婦達の決死の炊きだしで握った飯だと聞いた。・・・この頃、私達は高木中隊長の指示に従って城内部隊救出に向う途中、城壁手前の林の中で、この様子を見守りながら待機していた。高木隊長は脱出兵の1人を呼び寄せて何事かを尋ねているようであった。脱出隊は破壊孔から無事、降り終ると私達のいる林の中を、右に東北の方向に移行した。間もなく、また一群の人影が現れた。彼等は、前者と同じ行動で素早く降りると、私達の林の中になだれ込んできた。よくみると、彼等はみんな女性である。否、正直言って彼女らは城内の慰安婦達である。その時、私は「ハッと思い浮かべた。この女達こそ、あの時、握り飯を届けてくれた人達である。・・・暗い林の中のこと、人数はよくわからぬが、2,30名はいるようである。・・・慰安婦達は林の角で怯えていた。しばらくたって慰安婦達の中から年配女が近付いて話しかけた。「城内には日本兵隊は1人もいません。本部の太田隊長さんも死にました。」敵中に斬り込んだことを意味するのであろう。彼女の目は鋭く光っていた。・・・彼女は竹迫少尉の手を握って「隊長さん、私達を一緒に連れていって下さい。途中のことは決して迷惑はかけません。死ぬ時には私達も一緒に死にます。」 |