韓国・闘う女性アーティストとの出会い
池田恵理子(wam館長)
wamだより17号「慰安婦」問題をきっかけに韓国へ行くようになってから、韓国では女性アーティストたちが女性運動の内側にいることの素晴らしさを、常々、羨ましく思ってきました。ナヌムの家のあちこちに展示された作品やハルモニたちへの絵画セラピー、韓国挺身隊問題対策協議会の発行物やグッズに至るまで、多くのアーティストたちの存在が感じられたからです。これは軍事政権と闘った民主化運動とそれに連動した女性運動が、文化や芸術にまで浸透したことの表れではないでしょうか。翻って日本では、政治的なメッセージを持つアートは排除されがちで、フェミニストでアーティストという女性たちも少数派です。
この違いを痛感したのが、1 月から2 月にかけてwamが科研の「20世紀女性美術家と視覚表象の比較研究」のプロジェクトと共催で行った一連のアート企画でした(詳細は本誌の特集を参照)。これは、韓国現代美術を代表するアーティストで女性運動のアクティビストでもあるユン・ソクナムさんから、「wamの活動支援の一助に作品を寄贈したい」という申し出を受けたことから始まりました。ソクナムさんは廃木にさまざまな女性の像を彫った作品《999》のうちの10体をwamに寄贈され、1 月15日の記念シンポジウムでは、さらに10体を贈ってくれました。これらの作品とソクナムさんとの出会いは感動的な出来事でしたが、日本のフェミニズムや美術界について考える契機にもなりました。
ソクナムさんはナヌムの家・歴史館にハルモニたちの慰霊と追悼の場として、大きな木製の女性像と真鍮の香炉、ロウソクの光で構成された空間を作った人です。彼女の話からは、母の肖像をはじめとする作品群を通して、儒教的な家父長制度の下で苦しむ女性たちを浮き彫りにしてきた足跡を知ることができました。しかしどの作品も豊かで美しく、決して教条的ではありません。観る者の魂を揺り動かす力を持っています。
講演前にwamの館内を案内した時、ソクナムさんは松井やよりコーナーに関心を示し、松井さんがジャーナリストとして、かつ女性運動のアクティビストとして活動してきたことに強い共感をおぼえたようでした。私はソクナムさんにもアクティビストらしいパワーとセンス、フットワークの軽さを感じて、とても嬉しくなりました。
このところ、チュニジアからエジプト、バーレーン、リビアなど、アラブ世界に広がっている民衆蜂起から目が離せない日が続きます。日本国内だって“民衆蜂起”が起きていいはずのことはいくつもあると思うのに、風は起こりません。アートから政治性を抜き取り“趣味”の世界に閉じ込めてきたのは、私たち自身ではないのか…そんな思いにかられるこの頃です。