すべての政権は嘘をつく
池田恵理子(wam館長)
この2月にNHK BS1で放送されたドキュメンタリー『すべての政府は嘘をつく』は、実に興味深い映画でした。アメリカの大統領選の最中に作られ、トランプ大統領の就任にあわせて公開された作品です。1940~80年代に活躍したアメリカの独立系ジャーナリスト、I.F. ストーンが「すべての政府は嘘をつく」と確信し、地道な取材でベトナム戦争をめぐる嘘などを次々と暴いていった足跡と、その後継者たちを描いています。製作総指揮はオリバー・ストーンで、ノーム・チョムスキーやマイケル・ムーア、エイミー・グッドマンといった面々も登場し、大統領がツイッターで嘘を連発して「ポスト・トゥルース」(脱・真実)や「オルタナティブ・ファクト」(もうひとつの事実)などを流行語にしてしまった現状への強烈なパンチに思えました。
アメリカのメディアには、国防総省の機密文書を暴露したペンタゴン・ペーパーズ事件やニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件など、政権と闘った輝かしい歴史があります。近年ではおとなしくなったように見えますが、批判的なメディアを排除するトランプ大統領に対しては、CNNやニューヨークタイムスなども抵抗を続けています。
それにつけても、連日の“トランプ騒動”を日本のメディアが(半ば面白がりつつ)よそ事のように報じているのを見ると、暗然としてきます。デジャヴ(既視感)があるのです。世界中の心ある人々から総スカンを食らっているトランプに即座にすり寄った安倍首相は、“似た者同士”です。この二人はメディアの選別・敵視・排除だけでなく、人権軽視、軍事優先、排他主義、歴史的事実を無視・歪曲して暴論を展開するところも酷似しています。
ところが日本の大手メディアは、このような安倍政権の報道支配に対して、お先棒を担ぐか、委縮して自己規制に汲々とするばかりです。さすがに森友学園事件には多くのメディアが食いつくようになりましたが、これすら今後の行方がどうなるかわかりません。
この20年余り、「慰安婦」の記憶を封殺しようと報道支配を続けてきた安倍政権を振り返る時、トランプのメディア戦略をよそ事としてではなく、両者の共通点を見据えて、安倍政権下での我が身と日本の現状を省みるべきではないでしょうか。