「慰安婦」とノーベル平和賞、そして闘うアルゼンチンの女たち
池田恵理子(wam 名誉館長)
今年のノーベル平和賞はコンゴで3万人もの性暴力被害者を治療・支援してきたデニ・ムクウェゲ医師と、イラクでISの性奴隷にされた被害を告発するナディア・ムラドさんに授与されます。この知らせに心が躍りました。命がけで戦時性暴力の根絶を訴えてきた二人です。ムクウェゲさんは2年前にwamに来て女性国際戦犯法廷のビデオや館内パネルで「慰安婦」被害者の証言を確認し、加害者と国家責任を問うことの重要性を語られました。今年は韓国の「慰安婦」被害者、金福童さんも候補にあがりました。もしハルモニも受賞していたら、戦時性暴力を人権侵害として世界に認知させるにはさらに有効だったのに…と少し残念です。
とはいえ、今年は#MeToo運動の広がりもあり、性暴力と闘う女たちが脚光を浴びました。wamでも10月に上智大学の3機関との共催で「アルゼンチン 正義を求める闘いとその記録」シンポジウムを開き、軍事政権の国家犯罪を告発する3人の女性を招きました。息子を強制失踪で奪われたノラ・コルティーニャスさんは「五月広場の母たち」を創設し、抗議行動を続けています。秘密拘禁施設で性暴力を受けたグラシエラ・ガルシア・ロメロさんは2005年から公開証言を始め、裁判の原告になっています。ベロニカ・トラスさんは人権侵害の記録や記憶を保存し伝える市民アーカイブズ「メモリア・アビエルタ」の代表。この国では、40年前の性暴力を人道に対する犯罪として裁いています。官民共同で申請したアルゼンチンの軍政下の人権侵害の記録はユネスコの世界記憶遺産にも登録されていますが、「五月広場の母たち」や「メモリア・アビエルタ」の記録も含まれています。私たちは、アルゼンチンの民衆の闘いをもっともっと学びたくなりました。
シンポジウムでの3人の講演は素晴らしく(2~5頁参照)、彼女たちが日本の市民活動に連帯してくれたことにも感動しました。シンポの前日、靖国神社と遊就館を案内した後、「お疲れのようだから、このままwamへ帰りましょう」と言うと、88歳のノラさんから「政府に抗議行動をしている人たちに会いたい」と、熱心に懇願されました。そこで文科省前の朝鮮学校無償化を求める集会に駆けつけたところ、朝鮮学校の生徒や支援者に大歓迎されました。シンポの後は沖縄へ飛んで、基地と軍隊を許さない女性たちと交流。帰国の日には「慰安婦」支援団体による東京の「水曜行動」にも参加しました。このサプライズに私たちは大感激! 困難な闘いを続けてきた者同士は、あっという間に打ち解けて連帯できるのだ…と改めて実感しつつ、別れを惜しみました。