「日本の今」につのる 閉塞感と危機感
池田恵理子(wam 名誉館長)
NHKではラジオ第1 放送がスタートした1943年の3月22日を「放送記念日」と定め、毎年この日に記念行事を行ってきましたが、94回目の今年は渋谷の放送センターを200名近い市民が取り囲み、「偏向報道をやめろ」「NHKはアベチャンネルになるな」と訴えて、会長に申し入れをする日になりました。
NHKニュースの政治報道を見る限りでは、沖縄の辺野古から森友・加計学園問題や福島の原発、「慰安婦」問題の日韓「合意」、韓国の「徴用工」判決に至るまで、安倍政権への追随・自己規制・忖度が一層強まっています。政権に不都合な事実は報道されず、安倍首相の発言や行動への批判はほとんど見当たりません。首相は年頭から「明治維新150 年」の祝賀ムードを盛り上げていますが、天皇の「代替わり」を利用して選挙戦を乗り切り、やがて憲法改悪へ…という目論みを感じます。「NHKのアベチャンネル化」が、どんどんリアリティを増してきました。
昨年4月に「国境なき記者団」が発表した「報道の自由度ランキング」で、日本は主要7 カ国で最下位の72位でした。この3月の国連の「幸福度」ランキングでも、日本は58位で主要7カ国の最下位、台湾や韓国を下回りました。「社会の自由度」や「他者への寛大さ」の評価が低かったからです。日本社会の不自由さと息苦しさが数字にも浮き彫りにされたようです。
折しもwamでは、3月1日から朝鮮人「慰安婦」展を始めました。今号のwamだよりの「見どころ特集」を読んでいただければ、日本政府が明治からの公娼制度を基礎に、侵略戦争と植民地支配を進める中でアジア全域に慰安所を設置し、国家が女性と男性の性を管理してきたことがわかります。明治150 年を礼賛するのではなく、「明治に学んではいけないこと」を考えなければなりません。日本政府と昭和天皇の戦争責任と植民地支配責任を曖昧にせず、私たち自身、自らの責任として向き合うべきことです。そして、政権への同
調が習い性となった日本のメディアでは報道されなくても、気づいた者たちがまず声をあげるしかありません。放送記念日には、そんな声がNHKの周囲に渦巻きました。