ご注目! 訴える壁「レノン・ウォール」
池田恵理子(wam名誉館長)
みなさんが久しぶりにwamへ来てエントランスに足を踏み入れた時、「あれっ?」と立ち止まるかもしれません。大きな「慰安婦」関連年表の手前で、「香港加油(香港頑張れ!)」の文字や様々なポストイットが貼られた壁が出迎えてくれるからです。そこには日本語・英語・広東語で、香港市民への支援や激励の言葉が綴られています。そう、香港で話題の「レノン・ウォール」の小型版なのです。
「レノン・ウォール」は冷戦時代のチェコのプラハで、ジョン・レノンの死を悼んだ若者が哀悼の言葉を書いた壁が起源だといいます。自由や平和を求める文字で埋め尽くされた壁は、やがて共産主義体制下で自由を渇望する若者たちが思いを語るシンボリックな場になりました。それが今、凶暴化した警察権力に命がけで抗う若者たちで溢れる香港の街角に出現しています。
11月11日、来日した香港の人権活動家、メイベル・オウさんに話を聞く緊急wam de cafe(詳しくは9 頁)では香港の闘いへの支持と賛同の表明として、wamでも「レノン・ウォール」を作ることに決めました。
今では「レノン・ウォール」は有力なメディアのひとつになっていますが、その昔には壁新聞の時代がありました。文化大革命時の紅衛兵から始まり、日本では全共闘が大学構内で壁新聞を作っていました。私がNHKに就職してからも、女性の先輩たちと差別待遇改善を求める壁新聞を作ったことを思い出します。“訴える壁”は、作るにも貼るにも読むにも時間と工夫が必要になるだけに、不思議な魅力と伝達能力を持っていました。
「あいちトリエンナーレ2019」で「表現の不自由展・その後」が中止されていた9 月後半(詳しくは2 頁から)、ここにも「レノン・ウォール」が出現しました。「あなたが自由を奪われた経験は?」と問われた来館者が、「閉じられた扉」にカードを貼っていったのです。それは1週間で1400枚を超えてしまい、扉の内側の壁も使われるようになりました。ネットだけでは事足らない、そんな訴えには「レノン・ウォール」はぴったりです。
wamの小さな「レノン・ウォール」は12月いっぱい掲示します。ぜひあなたの一言を!