学びあえる「場」をつくる
山下芙美子
コロナ禍をつうじて、オンラインで学び、交流するためのツールがこれまで以上に生み出され、活用されるようになりました。会場がなくても開催ができ、講師も参加者も移動する必要がないため、国内外のゲストを迎えたセミナーが多様に開催されています。
wam では、「出会うこと」「顔を合わせて議論すること」を大事にしたいと、オンラインのみではなく、従来どおりの会場型と組み合わせるハイブリッド・セミナーを模索してきました。有料セミナーのためのシステム選び、参加申込と参加費の事前徴収、ハイブリッドに必要な機材や進行の工夫、講師の方や司会にとってはライブ会場とオンラインの聴衆の両方に目配せした話し方…。これらはコロナ前には意識しなかった課題です。ネットに慣れていない方にとっても扱いやすく、費用も技術面もwam にできることを見極めながら運営するのは、言うは易し、行うは難しの連続です。また、数多の無料のオンラインセミナーが開かれるなか、wamならではの「有料でも参加したい」と思ってもらえるセミナーを企画することにも悩みが尽きません。
アンケートでは、オンラインのおかげでセミナーに参加できたとの肯定的な意見がよせられました。東京から離れた地域にいる方や、出かけにくい事情がある方などには選択肢が増えたことになります。一方で、操作方法がわからない、教えてくれる人がいないからと参加を諦めた方もいるようで、ネット環境の差を感じます。
個人情報に関する意見もありました。電子チケットサイトに個人情報を提供するのは抵抗がある、Google フォームは不安なので別のツールに変えてほしいなどです。インターネットはメリットが大きい反面、個人情報がどこに、どう保存され、どう扱われているかを把握することは困難です。しかし近年、個人データやプライバシーの保護の必要性が重視され、受け取る情報の取捨選択や、個人データ提供の可否を自分でコントロールできる手段も増えてきました。「みんなが使っているから」ではない、一人ひとりの主体的な選択から、デジタル空間の信頼を確保する一歩が始まるのかもしれません。
wam の来館者やセミナー参加者から時おり耳にするのが「思っていることをこんなに思うままに話せる場がこれまでなかった、wam に来てよかった」という言葉です。うれしさよりも、その方が抱える日々の息苦しさに思い至ります。
学びの「場」を大事にするwam にとっては正念場でもあります。知識を得るだけではなく、相手の意見を聞き、自分の意見を言う、戦争をなくすために、今とは違う世界の在り方を考える、安心して思いやアイデアを分かち合う、それらが当たり前にできる「場」は、隣に語り合う誰かがあってこそ。互いの表情が見える「リアルな場」を持つwamの利点を活かしつつ、来年も試行錯誤を続けます。ぜひご一緒に。