沖縄と東京の「慰安婦」問題をめぐる“温度差”
池田恵理子(wam館長)
沖縄が「本土復帰」して40年の今年、「慰安婦」展を沖縄と東京で同時開催することになりました。沖縄で女性の人権や女性史に取り組んできた女性たちとの共同作業は、遠離地ゆえの試行錯誤の連続でしたが、実に多くの発見と学びがあったことに気づき、大きな成果を実感しています。
沖縄と本土との違いは様々な局面に見られますが、「慰安婦」問題をめぐるメディアの“温度差”は相当なものです。wamで沖縄タイムスと琉球新報の購読を始めたところ、民衆の側に立つことを忘れないジャーナリスト魂を感じることが多くなりました。本土の全国紙では「慰安婦」問題はタブー視されて滅多に記事になりませんが、沖縄ではしっかり報じられます。6 月15日からの那覇市歴史博物館での展示には地元の新聞やテレビが開幕前から取材に訪れ、沖縄で初の「慰安婦」展を通してその実態に迫ろうという気迫が感じられました。それもあって12日間の展示期間中には、通常の4 倍にあたる1800人が来館。混み合う会場で多くの人がパネルを熟読し、慰安所に関する新しい証言も寄せられました。アンケートには率直な驚きや憤りが書き込まれ、その関心の高さと熱意には圧倒されました。「慰安婦」を否定する右派からの批判は、初めの頃に少しあっただけでした。
一方、東京でも今回の沖縄展への注目度は高く、6 月23日の朝日新聞・夕刊では「沖縄慰霊の日」の記事の中でwamの沖縄展が小さな囲みで紹介されました。同紙に取り上げられたのは開館以来初めてです。以後、問い合わせ電話が殺到し、初来館の方々が増えています。オープニング・シンポジウムも、沖縄から高里鈴代さんと宮城晴美さんをお招きした効果が大きく、大盛況でした。東京では新宿ニコンサロンでの「慰安婦」展の中止事件など、忌々しい動きが目立つ時期だっただけに、手応えの確かさにはホッとしました。ニコンの安世鴻(アンセホン)さんの写真展に対する右翼の妨害は想定内でしたが、ニコン側の“意地悪”としか思えない対応は目に余りました。5 月に開館したソウルの「戦争と女性の人権博物館」には、日本政府が展示内容や韓国政府の資金援助を批判し、右翼団体は日本大使館前の「平和の碑」に嫌がらせを繰り返しています。
こうした中、朝日新聞・夕刊の社会面に、今度は大きくwamが取り上げられました( 7 月6 日)。ところが読んでみて愕然。「慰安婦 風前の伝承」「政府認めて20年、関与否定の動き」という見出しで、「来館者減と財源難に悩むwam」と、右翼勢力の増強ぶりを伝える内容です。若い記者には一生懸命、被害女性の証言と記憶の継承の重要性を語ったのに、こんな風に料理されるとは…。この後、wamを案じた電話やメール、カンパを寄せてくださった皆さま、ありがとうございました! でもwamは大丈夫。皆さまに励まされて、ますます張り切って活動を続けます。