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戦時性暴力、「慰安婦」問題の被害と加害を伝える日本初の資料館

「wamだより」VOL.27(2014.7)

  • 巻頭言:「集団的自衛権の行使容認」が連れてくる社会
  • ここが見どころ!「中学生のための『慰安婦』展+」
  • 速報! 自由権規約委員会・日本審査
  • 第12回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議報告
  • 来館者ピックアップ
  • 検証:河野談話をめぐって(1)
  • 広島大学・「慰安婦」授業への不当な攻撃をめぐって
  • 報告:
    • 緊急セミナー 台湾・ひまわり運動が問うていること
    • 映画『蘆葦の歌』の上映会とトークから
  • NHKの危機に動き出したOBやOGたち
  • wamパネル巡回
  • 在日韓人歴史資料館で「置き去りにされた朝鮮人『慰安婦』」展を開催
  • 巨大台風の爪痕が残るレイテ島―3人のロラのふるさとを訪ねて
  • 連載 ベルリンからの風 Vol.3
  • 連載 扉をひらく(3)
    • 日本軍「慰安婦」問題の取りくみを通してジェンダーの視点を学ぶ
  • 連載 被害女性たちの今(24)インドネシア
  • イベントカレンダー
  • wam de つながる
  • wamライブラリーから
【巻頭ページ】

「集団的自衛権の行使容認」が連れてくる社会

池田恵理子(wam館長)

特定秘密保護法によって国民の「知る権利」も「表現の自由」「集会・結社の自由」も大幅に狭め、憲法9 条を空文化して「集団的自衛権」の行使容認を閣議決定してしまった安倍政権。国民の権利が制限される一方で、政府にはフリーハンドが与えられたことになります。ファシズムの到来です。時代の空気を先読みして増長する右翼団体とそれを煽る右派メディア、そして自己保身の事なかれ主義が蔓延する社会…。何という時代でしょう!

7 月6 日、wamのある早稲田奉仕園では、日本キリスト教会館とキリスト教視聴覚センターに事務所を置く団体に、民族差別と憎悪を煽動する右翼団体のデモが「反日の牙城」「朝鮮カルト」などと叫びながら、「突入」しようとやってきました。敷地内の諸団体は警戒態勢をとって事なきを得ましたが、日本社会の右傾化に歩調を合わせてこんな輩が出てくるのです。ただ、もっと怖いのは、右派メディアの魔女狩り的な報道と各地にじわじわと広がる自粛や相互監視、そして諦めと沈黙です。

広島大学のように、授業で「慰安婦」を教えて右派メディアの標的にされる事件が東京の高校でも起こっています。安倍首相の“悲願”が改憲だからか、憲法記念日には自治体の自粛が目につきました。神戸市と市教育委員会では、内田樹氏の憲法集会の後援を「政治的中立性を損なう恐れがある」と断りました。6 月、明治大学では安倍政権批判の集会の会場使用を、開催1週間前に取り消しました。大学側は、右翼の街宣車が押しかけたり、警備が必要になるからだと弁明しています。

7 月4 日には、さいたま市の「公民館だより」に、集団的自衛権に反対する女性の俳句、「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」の掲載が拒否されたことがわかりました。公民館長は「世論が分かれる問題で、一方の意見だけを載せられない」と説明しています。これは明らかに表現の自由の侵害ではないでしょうか。

メディアも深刻です。6 月29日、東京・新宿で60代の男性が集団的自衛権に抗議して焼身自殺を図りました。この事件はネットで注目されましたが、翌日の朝刊では社会面の小さなベタ記事、民放も短いニュースで報じただけで、NHKは一切、取り上げませんでした。一方、欧米のメディアの扱いは大きく、日本での報道が極端に少ないことを記事にしています。「自殺報道は後追いを配慮して自制すべし」と言われますが、社会への抗議の自殺を軽視・無視するのは問題です。自殺という抗議の仕方には賛成できませんが、この報道自粛には、集団的自衛権の行使容認を何とか世論に認めさせたい安倍政権と、政権を忖度するメディアの現状が浮き彫りになったように思いました。

特定秘密保護法の番組を1 回も放送しなかったNHKの「クローズアップ現代」は、集団的自衛権でも沈黙していましたが、7 月3 日、菅義偉官房長官が単独出演する番組を放送。「政府見解のリピートか」と思ったものの、国谷キャスターが鋭い質問を浴びせていたのが印象的でした。ところがこれに官邸が激怒、慌てたNHKは平身低頭で籾井会長が詫びを入れた…と週刊誌が報じました。政府要人へのインタビューは、「おとなしく聞いていればいい」ということでしょうか。

「慰安婦」問題に長く関わって戦争の怖さを実感してきた者は、このような状況にNo! と言って、抵抗し続ける義務がある…と思っています。


【検証】河野談話をめぐって(1)
河野談話の検証結果が明らかにしたこと、しなかったこと

渡辺美奈(wam事務局長)

日本政府は、河野談話の作成過程および後続措置であるアジア女性基金について、2014年6月20日に検証結果の報告書を発表しました。この文書は、何を明らかにし、何を明らかにしなかったのでしょうか。

検証の結果、河野談話の文言については、韓国政府との調整が若干あったものの、日本政府は「調査を踏まえた事実関係を歪めることのない範囲」で採用していたことが明らかになりました。河野談話を守ることが精いっぱいの運動のなかでは、「河野談話を見直す必要がないことがわかったから、いいのではないか」という意見も聞こえてきますが、事実関係を中心に問題点を指摘しておきたいと思います。

 

1.被害証言を証拠と捉えなかったこと

1993年7月に行われた韓国の「慰安婦」被害者16人の証言聞き取りは「儀式」であり、河野談話では証拠として採用していないことが明らかになった。裏付けをとっていない「慰安婦」被害者の証言の信憑性について歴史修正主義者が疑義を唱えていたため、証言が根拠になっていなかったことを問わない傾向がある。しかし、日本政府が調査の一環として聞き取りをした証言を証拠として採用しなかったことは大きな問題であり、その理由を明らかにする必要がある。

 

2.「強制連行」は確認できないとしたこと

検証結果では「いわゆる強制連行」は確認できなかったと断じている。一方、河野談話では、「慰安婦の募集については……甘言、強圧による等、本人の意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したことが明らかになった」という文言がある。証言を根拠にしていなかったことがわかった以上、この事実を認定した文書等を明らかにし、そのうえで「いわゆる強制連行」との違いを説明すべきである(なお、検証結果には韓国挺身隊問題対策協議会が制作した証言集等も分析していたことが示されており、また軍が民間人抑留所から女性たちを連行したスマラン事件の判決等は、河野談話作成の時点で、すでに政府は入手していたことが確認されている)。

実は河野談話には、「強制連行」という言葉も「強制性」も存在しない。あるのは「本人の意思に反して」と「強制的な状況の下」という文言である。それが、2007年3 月、第1次安倍政権下の閣議決定で「いわゆる強制連行」という文言が登場して以来、混乱が起きている。しかしこの検証結果においてもこれらの文言の違いは明らかにされないまま、「いわゆる強制連行」を否定した。国連の自由権規約委員会においても「強制連行」と「意思に反した募集」の違いが理解できないと指摘されている。

 

3.「強制性」を限定して理解していたこと

今般の検証結果で、強制性を認めるにあたっての日本政府の「こだわり」として明らかになったのは、「一部に強制性があった」という主張である。それは石原信雄官房副長官が「慰安婦全体について強制性があったとは絶対に言えない」と、感情的な主張をしていた記録にも示されている。どのような被害を「強制性」があったとし、あるいはなかったと考えたのかは明らかではないが、この見解は、「慰安婦」制度を日本軍性奴隷制として理解していなかったことの証左といえる。

 

4.外交慣例をやぶったこと

日本政府としての立場を発表するにあたって、相手国に相談することは当然のことであり、検証結果もその範囲を超えたものとは思われない。しかし、公開しないことを約束した外交交渉であり、しかも相手国の反対が事前に示されているにもかかわらず、一方的に公開したことは日本政府の外交姿勢として非難を免れない。また、韓国政府からは、検証結果は“外交文書のつまみ食い”であるとの批判がなされている。情報公開は良しとする向きがあるが、都合のいいところだけを公開しているとすれば問題である。

 

5.委員会の人選への疑問、その他

検証委員会の人選については何の説明もなく、適任かどうかも不明である。また、河野談話の作成過程の検証が当初の目的であり、「歴史的事実そのもの」は検討しないと調査範囲を決めつつ、後続措置であるアジア女性基金について紙幅を割いている点も不可解である。さらにいえば、1993年の時点ではフィリピンや台湾、インドネシアなど他の被害国政府とのやりとりも始まっていたはずだが、それらにはまったく触れず、日韓関係のみにしぼることが適切だったのか。

総じて、この検証結果は疑問点を残しているとともに、事実に反する結論を示している。そうである以上、歴史の事実を明らかにするためのさらなる調査・検証が必要である。