若者たちが「戦争」を語り始めた
池田恵理子(wam館長)
9月19日未明、安倍政権は参院特別委員会で違憲の戦争法=安保関連法案を、違法としか言えない「採決」で成立させてしまいました。連日国会前は法案に抗議する人々で溢れかえり、反対運動は全国各地に、学生たちや法律家や若いママたちにも燃え広がりましたが、それらの声を全く無視した暴挙です。wamも8月30日には開館以来初めて臨時休館にして、皆でwamのバナーを掲げて国会前に結集。この日は12万人が国会を包囲しました。
暑く、そして熱かった夏、法案に反対する人々の切羽詰まった思いには、並々ならぬものがありました。当初、国会周辺には見知った中高年が目立ち、若者はと言えば大学自治会の旗を掲げた活動家がわずか…といったところでしたが、いつの頃からか、組織動員とは思えない学生たちが増えて、「勝手に決めるな」「民主主義ってなんだ」などの普段使いの声が登場。あれよあれよという間にSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)が躍り出て、やがて高校生のT-ns SOWLまで出てきました。私は9月18日の夜もやむにやまれず国会前に行きましたが、あらゆる世代が集まっていました。法案通過はわかっていても、不思議と悲壮感は漂わない。「これで終わりじゃない、ここから始まるんだ」という感じで、学生たちも元気なのです。
夏休みにはwamにも若者たちがやってきますが、今年は「戦争を知ろう」と動き出した高校生が目につきました。中国と沖縄での戦場体験を語る元兵士・近藤一さんの聞き取りをビデオにまとめてきた愛知県・同朋高校放送部の生徒たちは、次には元従軍看護婦に会いに行くと言います。北海道江別市の女子高生は、数年がかりで人間魚雷「回天」の調査に取り組み、膨大な資料を報告書にまとめていました。
そういえばSEALDsの中心メンバー、奥田愛基さんは島根の高校生だった5 年前、授業でニューギニアでの住民殺害を問われた元BC級戦犯の話を聞き、「戦争のリアルを感じた」「彼は、僕らに伝わるか伝わらないかとは関係なく、理屈を越えて『戦争をしてはいけない』と言いに来た。だから僕も声をあげ続ける」と語っています。
彼らの活動に対して、特攻隊を目指した元予科練生(86歳)は「嬉しくて涙を流した。体の芯から燃える熱で、涙が湯になるようだった。オーイ、特攻で死んでいった先輩、同輩たち。『今こそ俺たちは生き返ったぞ』とむせび泣きしながら叫んだ」と新聞に投書しました。「若かった我々が、生まれ変わってデモ隊となって立ち並んでいるように感じた。学生さんたちに心から感謝する。今のあなた方のようにこそ、我々は生きていたかったのだ」と。
あらゆる世代が「戦争」に向き合い、「戦争」を語り始めたのです。そうせざるをえないような、戦争前夜を思わせる政治状況だからですが、ごく普通の若者たちが「政治家は私の声を代表していない」と気づき、「戦争に行きたくない・行かせたくない」と街頭に出てきたことに希望を感じます。