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戦時性暴力、「慰安婦」問題の被害と加害を伝える日本初の資料館

塩野七生氏と『文藝春秋』編集部へ公開質問状を送付しました

wamでは本日付で『文藝春秋』編集部と塩野七生氏へ、『文藝春秋』10月号に掲載された塩野七生氏の論文について、以下の通り、公開質問状を送付しました。また、同じ内容のものをメディア各社へ送付しました。
転載も歓迎ですので、ぜひ拡散にご協力ください。
PDFはこちらからダウンロードしてください。
『文藝春秋』編集部宛て
塩野七生氏宛て
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『文藝春秋』編集部 御中
公開質問状
『文藝春秋』2014年10月号の塩野七生氏による寄稿「朝日新聞の“告白”を越えて――『慰安婦大誤報』日本の危機を回避するための提言」には、「慰安婦」問題に関する重大な事実誤認があります。これを読む限り、「慰安婦」問題の基本情報についての知識がそもそも乏しいことがわかります。
歴史的事実を全く無視した内容の文章を放置したままにすることは、貴誌の歴史と伝統を汚すだけでなく、塩野七生氏の歴史作家としての評価を貶めることになり、さらには「慰安婦」問題についての誤った見方を読者に広めて、将来に大きな禍根を残すことにもなるでしょう。事実関係を貴誌において確認の上、早急に訂正と謝罪文を貴誌にて公表してくださるようお願いします。
塩野七生氏には以下のようにオランダ人「慰安婦」問題に絞って、塩野氏がこれらの事実を全くご存知なかったのかどうかを質問しています。塩野氏宛ての公開質問状を同封しましたのでご参照ください。

1)日本軍占領下のインドネシアで、抑留所に入れられていたオランダ人女性が日本軍の慰安所に入れられたこと。
2)オランダの検察団は戦後の東京裁判で、インドネシアのマゲラン、モア島、ポンティアナック、ポルトガル領ティモールの慰安所ケースの証拠を提出していたこと。
3)オランダはバタビア、ポンティアナック、バリクパパンなどのBC級戦犯裁判で、慰安所の責任者たちを裁いたこと。
4)このことは日本政府、オランダ政府の調査でも報告されており、1995年に日本政府が設置した「女性のためのアジア平和国民基金」ではオランダも基金の対象国となったこと。
5)「慰安婦」にされたオランダ人(オランダ政府の調査によると強制された女性の数は65名)の中から名乗り出て証言を行い、克明な被害状況を自伝に著しているジャン・ラフ=オハーンさん、日本政府を相手取って民事裁判に訴えたエレン・コリー・ヴァン・デル・プロフさんがいたこと。
6)2007年には米国、カナダ下院、欧州議会と並び、オランダ下院でも、日本政府に「慰安婦」問題の責任を認めて被害者に謝罪金銭補償を行うよう、全会一致で決議案を採択したこと。

オランダ人「慰安婦」被害については、オランダだけでなく日本でも広く知られている事実であり、当館でも証拠資料や文献、証言映像などを閲覧可能にしています。貴誌の編集部では、上記の事実をご存知なかったのでしょうか。塩野七生氏の記事を掲載する前に、編集部として「慰安婦」関連の書籍などで下調べをしなかったのでしょうか。あるいは知っていたのに、あえて修正をしなかったとしたら、その真意は何でしょうか。
「慰安婦」被害の実態について誤った情報が多く報道されているなか、貴誌には、単純な事実さえ確認することなく、事実がまるでなかったかのような誤情報を流出させた責任があります。
なお、この質問状と貴誌の回答・対応については、報道機関やネットを通じて公開しますので、ご了承ください。
2014年10月4日
アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)
 
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塩野七生 様
公開質問状 
『文藝春秋』10月号掲載の「慰安婦大誤報」は
歴史的事実を無視した虚報につき、質問への回答と記事の撤回を求めます

私たち、アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)は、戦時性暴力の記録と記憶の拠点として2005年に開館し、日本軍「慰安婦」制度の被害と加害についての各国の証言や資料を収集・公開・保存している、日本で唯一の資料館です。
この度、あなたが書かれた『文藝春秋』10月号の「朝日新聞の“告白”を越えて――『慰安婦大誤報』日本の危機を回避するための提言」には、私たちが見過ごせない「慰安婦」問題に関する重大な事実の誤認と無視が数多くあります。
あなたは高名な歴史作家であり、その影響力は計り知れないものがあります。ところが今回のあなたの文章はあまりにも歴史的事実とかけ離れた内容ばかりであり、検証も裏付け調査もなされていない「虚報」と言わざるを得ません。
ここに公開質問状をお送りしますので、直ちに掲載誌にて訂正をしていただきたく存じます。
 
質問1
あなたは、朝日新聞の検証記事に出てくる強制連行を示す公文書に関連して、「インドネシアではオランダ人も慰安婦にされた」という部分に強く反応し、こう書かれています。

われわれ日本人にとって、欧米を敵にまわすのは賢いやり方ではない。オランダの女も慰安婦にされたなどという話が広まろうものなら、日本にとっては大変なことになる。そうなる前に手を打つ必要がある。

あなたは、1990年代の初めにはオランダ人の「慰安婦」被害者が名乗り出て、日本政府を訴える裁判を起こした女性もいたことを全くご存知ないのでしょうか?
今日の「慰安婦」問題は、1991年に韓国の被害者、金学順さんが名乗り出たことから始まりますが、このニュースを知ったオランダ人のジャン・ラフ=オハーンさんは、翌92年にインドネシアで「慰安婦」にされたと名乗り出て、東京で開かれた国際公聴会で証言しました。1994年には、自伝『Fifty Years of Silence』(邦訳『オランダ人「慰安婦」ジャンの物語』1999年、木犀社)も著しています。オハーンさんは「スマラン事件」と呼ばれるケースに該当すると言われていますが、これは戦後、オランダ軍によるBC級戦犯裁判で裁かれました。90年代初頭に行われた日本政府調査でも、発見された資料の中にこの事件に関わる公文書が含まれています。
また別の被害者のひとり、エレン・コリー・ヴァン・デル・プロフさんは1994年に日本政府に謝罪と賠償を求めた「オランダ人元捕虜・民間抑留損害賠償請求訴訟」の提訴人になっています。この裁判は、最高裁で原告の請求は棄却されたものの、軍による意思に反した連行を含め、彼女たちに兵隊の性の相手を強いたという被害事実は認定されました。
オランダ政府も1994年に公文書の調査報告をまとめています。日本政府が設置した「女性のためのアジア平和国民基金」ではオランダは基金の対象国となりました。このようにオランダ女性の「慰安婦」被害については、証言も記録もたくさん出ており、テレビ番組やドキュメンタリー映画も作られています。
オランダ女性の「慰安婦」被害はすでに90年代に欧米諸国にも知られていましたが、2007年には米国、カナダ、オランダの下院、欧州議会などが相次いで日本政府に対して「慰安婦」問題の早期解決を求める決議を採択しています。ただしこれは「オランダの女も慰安婦にされた」からではありません。第1次安倍政権で安倍首相が、「官憲が家に押し入って人さらいのごとく連れて行く、狭義の強制連行はなかった」と発言したことが発端でした。それは、「慰安婦」被害を「連行における強制の有無」に矮小化し、連行時に軍や官憲による強制がなければ、女性がどのような非人道的な性暴力を受けようが知ったことではない…といわんばかりの安倍首相の、そして彼を支持する日本人の人権感覚の欠如が問われたものでした。つまり、あなたが問題視した「強制連行を、狭い意味と広い意味に二分」した張本人は安倍首相であって、朝日新聞ではありません。
 
質問2

あなたは「当事者本人の証言といえども頭から信ずることはできないという人間性の現実」に言及していますが、あなたは被害者の証言をこれまでに聞いたり読んだりしたことがありますか?
私たちはこれまで、各国の「慰安婦」被害者の証言の聞き取りを行ってきました。それらの中に誇張や記憶違いなどが全くないとは言えませんが、彼女たちの証言の裏付けや傍証をとり、元日本兵の証言や公文書など入手可能な文献を集めて明らかにしてきました。この性暴力被害の実態は、決して許されてはならない、恐るべき凄惨なものなのです。
あなたには是非、この公開質問状に回答していただくとともに、この被害実態を知るために、日本に帰られた折には、当資料館にぜひお越しください。ここに集められた各国、各地の被害女性たちの声を聞いてください。集められた膨大な文書資料を見てください。ここにご招待状を同封させていただきます。
 
2014年10月4日
アクティブミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)
館長 池田恵理子
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