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戦時性暴力、「慰安婦」問題の被害と加害を伝える日本初の資料館

4月13日に新座市に送ったwamの抗議文です。

新座市で市民団体がwamの貸出パネルの展示をするために公民館のギャラリーの利用申請をしたところ、「啓発的事業」の展示はできないという理由で申請が不許可となる事件が起きました。wamでは4月13日に同市教育委員会、同市教育総務部そしてふるさと新座館宛てに、以下の抗議文を送付しました。
 
PDFはこちら→ 日本軍「慰安婦」パネル展開催不許可の撤回と、展示開催を求めます!

新座市教育委員会委員長 鈴木松江 様
新座市教育委員会教育長 金子廣志 様
新座市教育総務部長   小山忠彦 様
ふるさと新座館館長   細沼鉄一 様

2015年4月13日

日本軍「慰安婦」パネル展開催不許可の撤回と、展示開催を求めます!

アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)

私たち、アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)は、戦時性暴力の記録と記憶の拠点として2005年に開館し、アジア全域における日本軍「慰安婦」制度の被害と加害についての証言や資料を収集・公開・保存している、日本で唯一の資料館です。
この度、にいざジェンダー平等ネットワークが3月27日から4月7日の期間、市の施設である「ふるさと新座館」ロビーでの「中学生のための『慰安婦』展」開催を申請したことに対して、同館がロビーの使用を許可せず、新座市教育委員会がにいざジェンダー平等ネットワークが提出した不許可撤回の請願を不採択としたことに抗議し、不許可の撤回とこのパネル展の開催を強く求めます。
複数の報道によれば、新座市では使用を不許可とした理由を、「新座市民ギャラリー使用要領の『啓発的な事業』に該当するため」(細沼鉄一・ふるさと新座館館長)、「市で使用している中学校向け教科書では『慰安婦』に触れていない」(小山忠彦・教育総務部長)、「『慰安婦』は世論を二分している」(金子廣志・教育長)などとしていますが、私たちはこれらの理由は不当であると考えます。
にいざジェンダー平等ネットワークが企画した展示は、wamが2007年に開催した「中学生のための『慰安婦』展」のパネルを使用し、「慰安婦」問題解決のための全国ネットワークである「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動」の助成を受けて行われる予定でした。
wamでは事業の一環として展示パネルを貸し出しており、2005年11月から2014年12月までに108ヵ所にパネルを貸し出してきました。そのうち公的な施設を使っての展示は66ヵ所で、全体の6割を超えています。また、「全国行動」の支援で2014年11月から2015年3月までに17ヵ所でパネル展が行われていますが、うち11ヵ所(64.7%)は公的施設です。どの会場でもパネル展を見た市民からの反響は大きく、「自分が知らずにいたことがショックだった」「日本人として知るべき歴史的事実だ」などの声が寄せられています。この10年間、wamの「慰安婦」パネルを公的施設で展示する際のトラブルは皆無ではありませんでしたが、今回のように「『啓発的な事業』に該当する」ことを理由に自治体から不許可とされたケースは初めてです。生涯学習の場として位置づけられる公民館が、学びを通じての地域住民の啓発を許可しない「使用要領」を有していることの問題は、今まで問われてこなかったのでしょうか?
「慰安婦」問題は日本の敗戦から半世紀近く経った1991年の被害女性の名乗り出から始まりましたが、この20数年間に真相究明が行われ、アジア全域での「慰安婦」被害の全貌が明らかになってきました。そして女性の人権を守り、戦時性暴力を根絶しようという国際世論を形成することになりました。
日本でも1997年度版の中学の歴史教科書の全てに「慰安婦」が記述されましたが、歴史修正主義者の「新しい歴史教科書をつくる会」などによる激しい反対行動により、「慰安婦」を記述した中学の教科書が減り、2012年度版には無くなってしまいました。しかし高校の歴史教科書の多くには「慰安婦」は記述されており、先ごろ発表になった2016年度版の中学の教科書でも「慰安婦」記述のあるものが検定に合格しています。
wamのパネルは学ぶ機会を奪われた中学生にもわかりやすい内容を心がけて作られていますが、これらは中学生だけを対象にしているわけではありません。2007年に安倍首相が「官憲による『慰安婦』の強制連行はなかった」と発言したことが直接の原因となって国内外から批判を浴び、アメリカ下院、オランダ下院、カナダ下院、欧州議会などでの日本政府に「慰安婦」問題の解決を求める決議採択や、国連の人権機関の日本政府への勧告が続きました。こうした中で中学生ばかりでなく、首相をはじめとする政治家などの大人たちもまた、「慰安婦」制度の実態についてはほとんど知らないことがわかってきました。世界の常識となっている「慰安婦」問題を、肝心の日本人が知らないでどうするのだ…という切羽詰まった気持ちで、私たちは2007年に「中学生のための『慰安婦』展」を実施したのです。
国際機関や海外からの批判を受けて、日本政府も「慰安婦」問題を無視できず、安倍首相も「河野談話」を継承すると繰り返し述べています。昨年7月に国連の自由権規約委員会は、日本政府へ「慰安婦」問題に関して極めて厳しい勧告をしました。勧告の6項目の中には、「教科書への充分な記述を含む、この問題に関する生徒・学生と一般市民への教育」があがっています。
また、「慰安婦」問題で「世論が二分」されていることは今の日本の現実ですが、それだからこそ、この20年間にわたる聞き取りや裁判、調査・研究によって明らかにされてきた事実を提示し議論するための企画が実施されなければなりません。この間の中学・歴史教科書の取り上げ方には変動がありましたが、だからこそ中学生も大人たちも、「慰安婦」問題を真摯に学ぶ機会を持つべきではないでしょうか。
新座市は2000年に市町村としては全国で4番目、埼玉県では初の「新座市男女共同参画推進条例」を作り、2001年には「男女共同参画都市」を宣言しました。こうしたことから、新座市は女性への差別をなくし人権を守り、男女平等を実現することに力を注いできた自治体であると信じています。
「慰安婦」制度は、女性への人権侵害の最たるものであり、根絶されるべき戦争犯罪です。現代の戦時性暴力をなくすためにも、その被害実態と歴史的事実を知ることから始めなければなりません。「中学生のための『慰安婦』展」は、このような目的のために手助けをすることができます。
そのためにも、にいざジェンダー平等ネットワークが女性の人権問題の活動として企画した「慰安婦」パネル展の「ふるさと新座館」ロビーの使用不許可を撤回し、このパネル展の開催を強く求めます。