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戦時性暴力、「慰安婦」問題の被害と加害を伝える日本初の資料館

【プレス・リリース】ユネスコ「世界の記憶」に関する報を受けて―「忘却の文化」でなく、「記憶の文化」をこそ

ユネスコ「世界の記憶」の審査において、「慰安婦」関連資料の登録の判断が見送られるとの報道が流れています。この事態について、「ユネスコ記憶遺産共同登録日本委員会」が発表したプレス・リリースは以下の通りです。
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Press Release                                           

ユネスコ「世界の記憶」に関する報を受けて

「忘却の文化」でなく、「記憶の文化」をこそ

 
 昨年5月31日、8カ国の市民団体で構成される「国際連帯委員会」および大英帝国戦争博物館が共同で登録申請した日本軍「慰安婦」に関する記録群(登録申請名称:「日本軍『慰安婦』の声」)の登録の判断が見送られ、2017年のユネスコ「世界の記憶」登録から除外されるとの報道に接しました。そもそも、2017年10月24-27日にパリで開催されたユネスコ「世界の記憶」国際諮問委員会の結果については非公開を原則とし、ユネスコ事務局長の署名をもって正式な通知を受けると理解していた私たちとしては、寝耳に水の報でした。2016年度にユネスコ「世界の記憶」に登録申請された記録群は125件に及ぶと聞いていますが、なぜ「日本軍『慰安婦』の声」の登録が除外されたのかについては、正式な説明を待たなければなりません。
 一方で、「日本軍『慰安婦』の声」がユネスコ「世界の記憶」に登録されることに日本政府が強く反対し、分担金支払いの停止という常軌を逸した強い措置をとってまで、ルールを変更するよう圧力をかけてきたことが報じられてきました。ユネスコがこのような圧力に屈し、私たちが登録申請した時点のみならず、いまだ正式に公表さえされていないルールを適用して私たちの申請を除外したとすれば、手続き上もきわめて異常な事態であり、遺憾の意を表明します。
 ユネスコ「世界の記憶」は歴史を判断するプログラムではありません。自然や建造物だけでなく、文書をはじめとした記録群も人類の重要な遺産であり、世界的にみて重要な記録を最適な形で保管し、より広くアクセス可能にすることこそがユネスコ「世界の記憶」の目的です。私たちはその趣旨に賛同し、日本軍の「慰安婦」にされた女性たちの「声」を重要な記録として残していきたいと考え、2015年8月に日本委員会を組織して、登録のための国際連帯委員会に加わりました。
 「日本軍『慰安婦』の声」として共同で「世界の記憶」に登録申請した内容は、日本軍「慰安婦」被害者の口述記録、正義を求める彼女たちの闘いの記録、あるいは日本軍「慰安婦」制度の事実を裏付ける一連の文書であり、女性の人権に関する普遍的な価値がある記録群だと考えています。ユネスコ「世界の記憶」として登録されようと、されまいと、私たちが記録を残し続ける意志がゆらぐことはありません。しかし「世界の記憶」に登録されれば、世界的な価値がある記録として確実に保存され、「この世を去っても自分の被害はなかったことにされない」という安心感を、被害女性たちは感じることができたでしょう。被害者の被害回復としても大きな役割を果たすことができたと思うと残念でなりません。
 ユネスコの目的は憲章1条で明らかなように、「国連憲章が世界の諸人民に対して人種、性、言語又は宗教の差別なく確認している正義、法の支配、人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を前進させるために、教育、科学及び文化を通じて諸国民の間の協力を促進することによって、平和及び安全に貢献する」ことです。ユネスコ「世界の記憶」をめぐるこの間の経緯については、本来の目的から逸脱しているのはユネスコではなく、「日本軍『慰安婦』の声」の登録を妨害した日本政府こそ、「正義、法の支配、人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を前進させる」ユネスコの目的に反し、逸脱した行為をしていると言わざるを得ません。
 日本政府は、アジア太平洋戦争中の日本軍の犯罪行為、日本軍性奴隷制のような人道に対する罪に向き合うことを拒んできました。日本軍の「慰安婦」にされた女性たちに行われた行為が、人権侵害であることさえ、日本政府は認めたことがありません。
 1945年、敗戦間際の大日本帝国は、戦犯追及を恐れて数多くの軍および政府の文書を廃棄しました。2011年、やっと日本でも公文書管理法が施行されたにもかかわらず、2014年には秘密保護法でその趣旨が骨抜きにされ、国立公文書館は省庁が保管する公文書の管理に権限が与えられないままです。森友・加計問題をみても、記録の保存が民主主義の礎であるとの認識が欠如している日本政府が、記録遺産の価値をうたうユネスコ「世界の記憶」のルール変更に貢献できることは、現時点で何一つありません。
 日本政府が求めているのは「忘却」です。「忘却の文化」に対しては、「対話」が必要なのではなく、「忘却の文化」を退け、「記憶の文化」を築くことこそが、国際社会、とりわけユネスコ「世界の記憶」に期待されている役割ではないでしょうか。ユネスコおよび「世界の記憶」プログラムの専門家のみなさまには、政治的圧力に屈せず、憲章に示された目的を果たすために活動していただきたいと切に願います。

2017年10月27日
ユネスコ記憶遺産共同登録日本委員会

 
【ユネスコ記憶遺産共同登録日本委員会 構成団体】
在日の慰安婦裁判を支える会
山西省における日本軍性暴力の実態を明らかにし、大娘たちとともに歩む会
台湾の元「慰安婦」裁判を支援する会
中国人「慰安婦」裁判を支援する会
フィリピン人元「従軍慰安婦」を支援する会
アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)
 
連絡先:東京都新宿区西早稲田2-3-18 AVACOビル2F
アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)気付
mowjapan2016@gmail.com