女性差別撤廃委員会は、フィリピン・マパニケ村での日本軍による集団強かんの被害女性の組織、マラヤ・ロラズによる個人通報を検討した結果、締約国フィリピンが、日本軍から性暴力を受けた女性たちが今も受けている差別や苦しみを救済できていないとして、見解と勧告を発表しました。
以下は、3月8日の国際女性デーに女性差別撤廃員会が出したプレスリリースの仮訳です。
フィリピンが2003年に女性差別撤廃条約の「選択議定書」を批准しているからこそなされた勧告です。日本も女性差別撤廃委員会の選択議定書を批准していれば、日本で最高裁まで闘って上告棄却されたロラたちも、本来の責任がある日本国に対して個人通報ができました。日本政府の責任を改めて問う必要があります。
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国連人権高等弁務官事務所 条約機関 報道発表
2023年3月8日
ジュネーブ(2023年3月8日)――国連の女性の権利に関する委員会が、フィリピンは第二次大戦中の日本帝国軍による性奴隷制の被害者の権利を侵害し、被害者が受けた損害にふさわしい補償および社会的支援・社会認識を提供することを怠った、と認定した。
女性差別撤廃委員会(CEDAW)は本日、24人のフィリピン人女性による申し立てについて、審理後の決定を発表した。この女性たちは、性奴隷制の被害者を支援するため設立されたNPO「マラヤ・ロラズ」(自由な祖母たち)のメンバーである。一般に「慰安婦」として知られるこれらの被害者は、第二次大戦中の性奴隷システムによって受けた損害を日本政府が賠償すべきとの彼女たちの主張を支援するよう、自国内でフィリピン政府にくり返し求めてきた。彼女たちは、フィリピンが彼女たちのために闘ってこなかったことが、本質的に、今日まで継続する彼女たちへの差別に相当すると主張した。
「これ[今日の決定]は、以前は沈黙を強いられ、無視され、フィリピンの歴史に含められず消されてきたこれらの被害者にとって、象徴的な勝利の瞬間です」とマリオン・ベセル委員は述べた。「当委員会の決定は、彼女たちの尊厳、包括性、社会的評価と名誉を回復するための地ならしです」と加えた。
1944年11月23日、ナタリア・アロンゾ他23名の被害者は、パンパンガ州サン・イルデフォンソの日本軍司令部「バハイ・ナ・プラ」(赤い家)に強制的に連行された。彼女たちはこの「赤い家」で1日~3週間にわたって拘束され、強かんその他の性暴力、拷問、非人道的拘禁状況にくり返しさらされた。それ以来、彼女たちは長期にわたる身体的・心理的・社会的・経済的影響に苦しんできた。身体的傷、PTSD、妊娠出産機能に対する永続的ダメージおよび共同体・結婚・仕事の中での社会的関係に対する永続的侵害などの影響である。
彼女たちは、国内レベルで自分たちは一貫して請求を行ない、自分たちの請求と日本政府に対して補償を求める彼女たちの権利をフィリピン政府が支持するよう、要請してきたと明言した。しかし、彼女たちの努力は当局によってくり返し退けられた。最後の請求が最高裁によって退けられたのは2014年であった。フィリピン政府は、1956年に日比平和条約を批准して以降、日本からの賠償を請求する立場にない、との立場を常に維持しつづけてきている。
被害者は次に、2019年にCEDAWに対し申し立てを行なって、フィリピン政府が女性差別撤廃条約のもとで、自国領域における女性・少女が差別されないことを支持する国家責任を有することの確認を求めた。
同委員会は、フィリピンが、日本との平和条約への署名により、賠償を受ける権利を放棄した点に注目した。とはいえ、これ[今回の事件]が継続的差別の事例であることを強調した。同委員会は、フィリピン国「女性に関する委員会」が、戦時性奴隷制が制度化されたシステムであることについても、それが被害者・サバイバーに及ぼした影響についても、被害者・サバイバーにとって必要な保護についても対応していなかったとした。対照的に、大半が男性であるところのフィリピンの退役軍人は、政府から、特別で栄誉ある取り扱いを受けている。教育手当、医療手当、高齢・障害・死亡年金が含まれている。
被害者が苦しんだジェンダー暴力の極端な深刻さと、原状回復・損害賠償・社会復帰(リハビリテーション)に関わる継続的差別に鑑み、同委員会は、フィリピンが女性差別撤廃条約のもとでのフィリピン国の責務に違反していると結論づけた。特に、同締約国が、適切な立法その他の措置をとって、女性差別を禁止し、女性の権利を男性と平等なレベルで保護することを怠った、と認定した。
同委員会は、フィリピンに対し、被害者に十全な補償を提供するよう要請した。これには、継続的差別に対して物質的な損害賠償と公式の謝罪を行なうことが含まれる。
「この事例は、女性・少女に対する戦時・紛争状況下の性暴力を矮小化あるいは無視することが、まさしく女性の人権侵害のもう一つの重大な形態であることを示しています。本委員会の決定が、亡くなったと存命中であるとを問わず、あらゆる被害者の人権回復に役立つよう願っています」とべセル委員は述べた。
(了)
《wam仮訳》